白いカラス

      2017/03/30

カラスは、ギリシャ神話では、もともと白かったとしてある。 



アポロドーロス『ギリシア神話』では、だいたいこんな風に説明がしてある。高津春繁訳を参考にした。
テッサリアーのプレギュアースの娘コローニスをアポローンは愛し、深い仲となった。

コローニスはまた、カイネウスの兄弟イスキュスとも、浅からぬ仲になった。イスキュスとあなたの恋人コローニスが乳繰り合っていますよ、そうアポローンに告げたのはカラスである。アポローンは、カラスを呪って、それまで白かったのを、黒くした。(ここでは、神々や人物の表記は、高津訳に従っている。)

 

オウィディウス『変身物語』では、少し詳しくなってくる。アポロドーロス『ギリシア神話』にある話と大枠は変わらないのであるが、『ギリシア神話』では、烏(カラス)となっていたのが、『変身物語』では、大鴉(オオガラス)となっている。『変身物語』では、大鴉が、忠臣面してアポロンのもとに、あなたの恋人が浮気していますと注進に行こうとしているところに、小烏(コガラス)が、およしよ、だまっといでよ、あたしみたいに、馬鹿を見ることになるから、と言いに来る。コガラスは、忠義面して、自分の主人に、あなたが禁止したことを、守らない人がいましたよと、報告して疎んぜられたという過去があった。

コガラスが、黒くなった経緯もオウィディウス『変身物語』に書いてある。そのあらましを紹介しておく。

 

コガラスは、コガラスになる前は、器量よしの王家の娘であった。彼女が海岸をそぞろ歩いていると海神ネプトゥーヌスに言い寄られた。口でなびかぬと悟ると海神ネプトゥーヌスは、彼女を追いかけてきた。彼女は逃げながら、助けを求めた。ミネルウァが哀れに思って助けてくれたはよいけれど、腕から胸から黒い羽根に覆われてしまった。空高く翔けあがり、海神ネプトゥーヌスから逃れはしたものの、彼女は嘆いた。

 

なお、オウィディウス『変身物語』について書くにあたっては、中村善也訳を参考にした。

チェーホフ『熊』の一節を見ていただきたい。

 

心変りのしない女を捜すぐらいなら、いっそ角のはえた猫か、白い羽のカラスでも捜したほうが、早手まわしですよ!アントン・チェーホフ『熊』神西清訳

 




オウィディウス『変身物語』では、大鴉から、自分の女がほかの男を愛していることを知らされると烈火のごとく怒り、女を手にかけた。アポロン、女というものは心変わりするもんだと、悟りきっていたら、殺すこともあるまいに。漁色家のわりに、さばけていない。

『平家物語』巻第五にも、白いカラスの話がある。ただしこちらは、頭だけが白いということになっている。梗概を記しておく。

 

燕の太子、丹というものは、秦の始皇帝にとらはれて十二年になった。丹は涙を流して、始皇帝にこんなことを言った。

私は故国に年老いたおっかさんがおります。いとまをください。おっかさんにあいとうございます。

始皇帝はせせら笑って、馬に角が生えて、カラスの頭が白くなったら、そんときには、いとまをやるよ。

燕の太子、丹が、天を仰いで、ひれ伏して、どうか、馬に角をはやして、カラスの頭を白くして、おっかさんにあわせてください、と祈ると、角の生えた馬が宮中にきて、宮中の木には、頭の白いカラスが棲むようになった。

 

 

馬に角が生えたら、鹿みたいになるのだろう。馬鹿、の逸話も秦にはあり、どうにも、秦の逸話には、馬や鹿に縁がある。落語「二十四孝」(なにも、落語の二十四孝でなくて、二十四孝そのものでもよいのだが。)でならされているものの、中国の話では、簡単に神様が無理難題をきいてくださって、拍子抜けがしないこともない。読者を安心させるために書いておくが、先の太子丹は紆余曲折あったが、虎口を逃れ故国に帰ることがかなった。

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