タヌキの戸の叩き方諸説

      2017/03/30

タヌキが人家を訪れることがある。その時、タヌキが戸を叩く場合があるのであるが、この戸の叩き方に諸説ある。
 




戸を尾っぽでたたく、というのが一般論である。

 

しかし、与謝蕪村『新花摘』では、タヌキは、戸に背中をぶつけて、戸を叩く音を出しているとしてある。信用しない人のために、該当箇所を引用しておく。

 

 

秋のくれ仏に化る狸かな(狸の戸におとづくるゝは、尾をもて叩くと人云ふめれど、左にはあらず。戸に背を打つくる音なり。) 与謝蕪村『新花摘』

 

 

蕪村の時代も、タヌキは、尾っぽで戸を叩いているというのが「常識」だったのだろう。蕪村の新説が、支持を得たのかについては、私の知るところではない。

 

落語「権兵衛狸」を次取り上げる都合上、ここで、「権兵衛狸」の梗概を記しておく。

 

 

権兵衛が床につくと表の戸を叩く音がする。権兵衛が戸を開けて外を見ても誰もいない。何度かそれが繰り返される。そのうち、権兵衛は、これは、狸の仕業ではないかという疑いを持つ。権兵衛は戸を叩く音がするとすぐ戸を開けられるようにする。戸を叩く音がしたので、戸を開けると狸が転がり込んできた。権兵衛は狸を縛り上げて炉の上につるした。夜が明けて、権兵衛の家に友人が訪ねてくる。友人は狸を見て殺すよう勧めたが、権兵衛は、「とっつぁま」の命日ということで、殺生はしないことにする。狸を逃がすにあたって、権兵衛は、狸を懲らしめるために、背中と頭の毛を刈った。狸にいたずらをしないよう言い聞かせ逃がしたが、その夜も、権兵衛の家の戸を叩く音がする。やはり、戸をたたいたのは狸で、権兵衛にいうには「今夜は髭(ヒゲ)をやってくださいな。」。

 

「権兵衛狸」が高座にかけられるときは、タヌキが、どのように戸を叩くのか解説されることがある。例えば、五代目古今亭志ん生は、タヌキというのは、頭で後ろ向きになってよりかかって、戸を叩くとしている。八代目林家正蔵は、尻尾で戸をたたくというのは嘘で、それでは音がしないので、戸に寄りかかって頭で小突く、としている。これは、心やすい狸から正蔵師匠が直接きいた話というから、信がおけるというもの。四代目鈴々舎馬風も、知っている狸からきいたそうで、同じことを言っている。桂枝雀は、尻尾には骨がないから、拳骨でたたくようなごつごつという音はしないと説明している。書くのが面倒になったから、他の落語家がどうやっているのか書くのはよしておくが、大体、大枠は同じ。考えたら当たり前の話で、どうしてもそうして叩いてもらわないと、戸を開けたとき、家の中に狸が転がり込んでこなくなってしまい、噺が進まなくなってしまう。

「権兵衛狸」の落ちは、「鯉舟」を思わせるところがある。「鯉舟」では、片方の髭をあたってもらおうという鯉が川から顔を出すというところでさげる。

 

狐狸は、なにかと一緒に話題にされることが多いため、キツネの戸の叩き方についても触れておく。三代目三遊亭金馬演ずる『権兵衛狸』では、キツネも、尾で戸を叩くという巷説が紹介されている。

井上円了『迷信解』でも、「民間にて申すには」キツネが「深夜、人家の戸をたたくは、尾をもって打つ声である」とある。



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